
企業を取り巻く環境の変化
企業を取り巻く環境の変化の1つに厚生年金基金の解散があります。
少し前になりますが新聞に厚生年金基金の解散が増えているという記事が出ていました。この時によく質問されたのが「厚生年金」と「厚生年金基金」の違いです。
今の公的年金制度は2階建てで、1階部分が国民年金、2階部分が厚生年金です。厚生年金基金は更に上の3階部分になり、公的年金ではなく私的年金である企業年金の一種です。
厚生年金基金は企業が基金を設立して管理・運営を行っている私的年金制度にもかかわらず、公的年金である厚生年金の一部を代行して、更に企業独自の給付を上乗せして支給するという特徴があります。
つまり加入者である企業の従業員にとっては、勤務先に厚生年金基金の制度がある方が将来の年金支給額が多くなることになります。以前のコラムで説明した確定給付型の年金制度ということです。
金利低下の影響で運用の悪化から積立不足に陥った基金が増えたことから、2014年に改正厚生年金保険法が施行され、基金の解散と他の制度への移行を促すことになっています。
厚生年金基金数はピークの1996年には1883基金がありましたが、2018年8月時点では22基金まで減少しています。
年金制度の3階部分にあたる厚生年金基金が減少・廃止に向かう中で、それに変わる制度として増えてきているのが確定拠出年金です。
また企業を取り巻く環境の変化として、社会保険料の上昇もあげられます。
社会保険料は厚生年金保険料と健康保険料の合計になります。
厚生年金保険料は2004年の13.934%から毎年0.354%アップして2017年に18.3%で固定されました。
0.354%というとたいした引き上げでないように感じますが、トータルで4.366%の引き上げになりました。社会保険料は労使折半ですから事業会社と従業員の両方で負担することになります。
例えばある従業員さんの給料を20万円とすると、2004年では13.934%の半分が個人負担ですので、負担額は13,934円から2017年には18,300円になります。
毎月4,366円、年間で52,392円増えたことになります。
事業会社にとっては、従業員の人数分増えたことになりますので、従業員数が10名なら年間約52万円の負担増、従業員数が30名なら約150万円の負担増です。
しかも社会保険料は会社の業績が赤字であっても、支払わなければならない金額です。税金のように赤字なら払わなくてよいわけではありません。
売上高も利益も順調に伸びる業績であればよいのでしょうが、中小企業にとっては重い負担になっています。
また税と社会保障の一体改革により消費税が2019年10月にはアップする予定です。将来的にはパート社員の社会保険料加入も行われます。
事業会社にとっては、今までと同様に今後も負担が増える環境下にあるわけです。
このような状況の中で中小企業にとって従業員のために新たな年金制度を導入する余裕があるでしょうか。難しいというのが現実です。
でも、選択制の企業型確定拠出年金なら企業の負担を増やさずに制度を導入できる可能性があります。これが導入を検討してもらいたい理由です。
ここまで厚生年金保険料のことを書いてきましたが、健康保険の保険料はどうなっているのでしょうか。
2008年からの10年間で健康保険料(介護保険料込、協会けんぽ)は9.33%から11.47%に増えています。厚生年金保険料と比べて上昇率が低く見えますが、2016年4月から報酬月額の等級が3等級追加されています。これは高所得者から多く徴収するようになったということです。
社会保険料(厚生年金と健康保険)は、今までも負担が増えてきましたが、これからも負担が増え続ける可能性があります。
負担増が話題となる「増税」と異なり、自動的に給与天引きされる社会保険料の上昇は「見えない増税」と言えます。
多くの中小企業にとって、社会保険料は税金よりも重い負担です。企業を取り巻く環境はこのように厳しい方向へ変化しています。
繰り返しになりますが、選択制の企業型確定拠出年金は企業の負担を増やさずに、福利厚生制度として従業員の資産形成に役立つ制度と言えます。
次回は個人型確定拠出年金(iDeCo)の詳細について解説します。